備品の返却忘れは、借りた人の記憶力より、期限の決め方と知らせの時機で決まる部分が大きいものです。返却日時の決め方、期限前日の通知、期限を過ぎたあとの督促の段取り、延長の受け方、返却時に確かめる項目までを、備品担当の実務に沿って整理しました。
撮影の前日に機材庫を開けたら、ワイヤレスマイクが1セット足りない。貸出記録には借りた人の名前があり、返却予定日は3日前になっている。本人に聞くと、前の現場から戻った車の荷台に積んだままだった。備品の担当をしていると、こうした場面に何度も出会います。
返却忘れは借りた人の不注意として片付けられがちですが、経緯をたどると、たいていは2つのどちらかに行き着きます。返却期限がそもそも曖昧だったか、期限を思い出すきっかけがどこにもなかったかです。どちらも借りた人の性格ではなく、貸し出す側の決め方で変えられます。督促の回数を増やすより、期限の決め方と、期限の前日に届く1通の知らせを整えるほうが、返ってこない件数は減らしやすいと考えています。
ひとくちに返却忘れと言っても、中身はいくつかに分かれます。どれに当たるかで、打つ手が変わります。
| 場面 | よくある状況 | 打ち手 |
|---|---|---|
| 期限が決まっていない | 使い終わったら返す、という口約束で貸している。返す日がないので後回しが続く | 貸す時点で返却日時を決める |
| 期限を覚えていない | 返却日は記録にあるが、借りた本人が見返す場所にない | 期限の前に本人へ知らせを届ける |
| 返したつもりになっている | 棚に戻したが記録を閉じていない。あるいは別の人に手渡して済ませた | 返却を受け取る人と、返却を閉じる操作を決める |
| 実質的に専有している | 毎日使う機材を借りっぱなしにしていて、返す理由がない | 貸出から外し、担当者への割り当てに切り替える |
4つ目は、他の3つと性質が違います。ある人が毎日使っているノートPCやカメラに返却期限を付けても、期限が来るたびに延長されるだけで、通知を送っても誰も行動を変えません。こうした備品は貸出の対象から外し、その人の担当として割り当てたほうが、記録と実態がずれずに済みます。返却忘れの件数を数えるときも、ここを除かないと実態より多く見えてしまいます。
残る3つのうち、期限が決まっていない件と期限を覚えていない件は、貸す側の段取りで防げます。返したつもりの件は、返却の手順の側を直します。
返却忘れの先にある紛失全般について、原因と対策を別の記事で整理しています備品・機材の紛失対策を読む返却期限は、貸す時点で日付と時刻まで決めます。使い終わったら、今週中、といった幅のある言い方は、借りる人にとって締め切りになりません。
日付だけの期限だと、その日のうちに返せばよいと受け取られます。翌朝に次の人が使う機材なら、前日の夕方に戻ってこないと準備が間に合いません。期限は、次に使う人の準備に間に合う時刻で区切ります。社内で使う小物なら当日の18時、撮影や出張に持ち出す機材なら戻った翌営業日の正午、といった具合です。
毎回その場で期限を考えると、貸す人によって長さがばらつきます。種類ごとに初期値を決めておき、借りる人はそこから必要な分だけ延ばす形にすると、貸す人が毎回迷わずに済みます。たとえば次のような分け方です。
初期値は長めに取りたくなりますが、短めに置いて延長を気軽に申し出られるようにしたほうが、返却忘れは減ります。2週間先の期限は、来たときには借りた理由ごと忘れられています。3日後の期限なら、借りた本人の頭にまだ用件が残っています。
持ち出し機材でよくある失敗が、撮影やイベントの最終日をそのまま返却期限にすることです。最終日は撤収と移動で手が空かず、機材は車や自宅に一晩置かれます。期限を最終日にすると、ほぼ毎回1日遅れの超過が出て、超過の知らせが誰にも読まれなくなります。戻った翌営業日の午前を期限にしておけば、超過として上がってくるのは本当に返ってこない件だけになります。
期限を決めても、借りた本人がその日を覚えている保証はありません。返却忘れを減らすうえで手応えがあるのは、期限を過ぎてからの督促より、期限の前に本人へ届く知らせです。期限前の知らせは相手を責める内容にならないので、受け取る側も送る側も気が楽です。
1週間前の知らせは、まだ使っている最中に届くので読み流されます。当日の朝だと、外出の予定が入っていて返しに来られないことがあります。期限の前日、遅くとも24時間前に届けば、翌日の予定に返却を組み込めます。期限が当日中の小物には知らせを送らず、貸すときに口頭で伝えれば済みます。
期限前の知らせの宛先は、借りた本人だけにします。この段階で管理者や上長に写しを送ると、まだ遅れていない人を見張っているように受け取られます。書く内容は、どの備品の、どの個体を、いつまでに、どこへ返すか。管理番号まで書いておくと、同じ型番の機材が複数あっても取り違えが起きません。
知らせとは別に、借りた本人が手元にある備品と期限をいつでも確かめられる場所を用意しておきます。紙の貸出簿は機材庫まで行かないと見られず、表計算ソフトの一覧は他の人の行に埋もれます。自分の名前で絞り込んだ一覧を開けるようにしておけば、知らせを見落とした人も自分で気づけます。複数の機材をまとめて借りる現場の担当者ほど、どれがまだ戻っていないのかを本人が把握しきれていません。
表計算ソフトや紙で管理していると、この前日の知らせは担当者が一覧を見て手で送ることになります。毎日決まった時刻に一覧を開く習慣が続くうちは問題ありませんが、担当者が休んだ日や繁忙期に抜けます。前日の知らせは毎日発生する定型作業なので、人が送るより、貸出の記録から自動で送られる形にしたほうが途切れません。
期限を過ぎた時点で、動く人が借りた本人から管理者に移ります。督促で避けたいのは、気づいた人がその都度、思いついた手段で声をかけることです。チャットで聞く人もいれば廊下で声をかける人もいて、誰がいつ何を伝えたのかが残りません。段取りを先に決めておきます。
1段目の知らせは機械的に送ってかまいません。2段目からは人が連絡します。超過の通知を毎日繰り返し送る運用は、3日目あたりから読まれなくなり、急ぎの件と区別がつかなくなります。自動で送るのは1回にとどめ、その後は管理者が相手と日時を約束したほうが、戻るまでの日数は縮みやすくなります。
管理者の側は、超過の一覧を見る時刻を決めておきます。朝いちばんに見れば、前日の夕方に期限を迎えた件にその日のうちに連絡できます。週に1回まとめて見る運用だと、2段目の連絡が最大で1週間遅れ、借りた人の記憶もそのぶん薄れます。
佐藤さん、10月3日12時が返却期限だったカメラ(CAM-03)がまだ機材庫に戻っていません。10月6日9時から次の予約が入っているので、10月5日中に戻してもらえますか。難しければ、返せる日時を教えてください。
文面で気をつけたいのは、なぜ返してほしいのかを書くことです。次の予約がある、棚卸しが近い、といった理由があれば、借りた人は自分の予定と並べて判断できます。理由のない催促は後回しにされます。
貸出停止のような罰則を設ける職場もあります。何十人もが同じ機材を取り合う環境なら抑止になりますが、10人前後のチームでは、罰則を運用する手間と気まずさのほうが大きくなりがちです。罰則を考える前に、期限前日の知らせと、超過翌日の個別連絡が回っているかを確かめてください。
返却期限を守ってもらうには、延長を申し出やすくしておく必要があります。延長の手段がないと、借りた人は黙って期限を過ぎるしかなく、管理者から見ると延長が必要な人と忘れている人の区別がつきません。
3つ目は、表で管理していると見落としやすい点です。延長を認めた結果、次に予約していた人の当日に機材がない、という事態は、返却忘れよりも周りへの影響が大きくなります。延長を受ける前に、その備品の先の予定を確かめる手順を挟んでください。
Werp™ では、予約の期間を変更して延長します。変更後の期間が同じ個体の別の予約と重なる場合は変更できないので、先の予定を見落としたまま延長してしまうことはありません。
返したつもりになっている件は、返却の手順が曖昧なときに起きます。棚に戻した時点で返却とするのか、記録を閉じた時点なのか、誰かが中身を確かめた時点なのか。ここを決めていないと、記録上は貸出中なのに棚に機材がある、記録は返却済みなのに付属品が欠けている、といったずれが出ます。
返却は、記録を閉じた時点で完了とします。棚に戻すだけでは完了にしません。そのうえで、備品の種類に応じて次の項目を確かめます。
全部を毎回確かめるのは負担なので、項目は備品の種類で絞ります。会議室の延長コードなら、保管場所に戻っているかだけで足ります。撮影機材やノートPCのように付属品やデータが絡むものは、受け取る人を決め、その人が確かめてから記録を閉じる運用にします。不具合が見つかった機材は、返却を記録したうえで状態を修理中などに切り替え、次の人に貸し出されないようにしておきます。
返したつもりの件をもう一段減らすには、記録を閉じる操作を返却の動作の中に入れます。機材庫で備品のQRラベルを読み取り、その場で返却を記録する形なら、席に戻ってから表に書くという一手間がなくなり、戻したのに記録が残っていない状態が起きにくくなります。
現場から現場へ、機材庫に戻さず次の人へ直接渡すことがあります。この場合、記録上は最初に借りた人のまま残り、期限の知らせもその人に届きます。受け取った人には借りている自覚がなく、渡した人の手元にはもう機材がない。どちらも返さないまま超過になります。手渡しをするときは、渡した時点でいったん返却を記録し、受け取った人の名前で貸出を記録し直すことを決まりにします。操作は1回増えますが、期限と知らせの宛先が、実際に機材を持っている人に移ります。
QRラベルで貸出と返却を記録する手順と、運用を定着させる工夫は別の記事にまとめていますQRコードで貸出・返却を管理する方法を読むここまでの段取りのうち、どこを人が担い、どこを記録の側に任せられるかは、貸出をどこに記録しているかで決まります。
| 記録の手段 | 期限前の知らせ | 超過の把握 | 返却確認の記録 |
|---|---|---|---|
| 紙の貸出簿 | 担当者が貸出簿を見て、手で連絡する | 貸出簿を開いた人だけが気づく | 確認者の欄を作れば残せる。後から探すのは手間 |
| 表計算ソフト | 担当者が一覧を見て手で送る。返却予定日で並べ替えれば探す手間は減る | 条件付き書式で赤くできるが、ファイルを開かないと見えない | 返却日と確認者の列で残せる |
| 通知を備えた管理ツール | 貸出の記録から自動で本人へ届く | 管理者の画面に超過の件数と一覧が出る | 返却の操作と同時に記録され、履歴として残る |
紙や表で回せないわけではありません。借りる人が数人で、貸出が週に数件なら、担当者が毎朝一覧を見て前日の知らせを送る運用で間に合います。人手で回すなら、一覧を見る時刻と担当者を決め、担当者が休む日の代わりも決めておきます。貸出がほぼ毎日発生し、借りる人が10人を超えてくると、前日の知らせと超過の把握を人が毎日続けるのは難しくなります。そこが、通知を自動化する道具を検討する目安です。
どの手段で記録する場合でも、月に1回、期限を過ぎた貸出の件数と、戻るまでにかかった日数を数えておくと、段取りを変えた結果が見えます。超過が特定の種類の備品に偏っていれば期限の初期値が短すぎる、特定の人に偏っていれば個別に話す必要がある、という切り分けもこの数字からできます。
表で始める場合は、返却予定日を過ぎた行が自動で赤くなる貸出管理表のテンプレートを無料で配布しています貸出管理表の作り方とテンプレートを見る返却のルールを含めた、備品管理のルール全体の作り方は別の記事にまとめています。備品管理のルールの作り方を読む返却忘れの多くは、期限が曖昧なことと、期限を思い出すきっかけがないことから起きます。返却期限は貸す時点で日付と時刻まで決め、持ち出し機材は戻った翌営業日に置く。期限の前日に本人へ知らせを届け、期限を過ぎたら1回の知らせのあとは管理者が相手と日時を約束する。延長は期限前の申し出で受け、次の予約と重ならないかを確かめる。返却は記録を閉じた時点で完了とし、付属品やデータが絡む機材は受け取る人が中身を見てから閉じる。
全部を一度に整える必要はありません。最初の1か月は、返却期限に時刻まで入れることと、前日の知らせを送ることの2つだけ始めてみてください。超過の件数がどう変わったかを見てから督促の段取りや返却時の確認に進むと、自分たちの運用で何が足りていないのかが具体的に見えてきます。
Werp™ は、ブラウザだけで使えるクラウド型の備品管理システムです。予約に返却期限を設定し、備品に貼ったQRラベルをスマートフォンで読み取ると、その備品のページから貸出と返却を記録できます。専用アプリのインストールは要りません。
貸出中の予約は、返却期限の24時間前と期限を過ぎたときに、借りた本人へメールとアプリ内の通知で知らせます。期限を過ぎた件は管理者全員にもアプリ内で通知され、管理者のホーム画面には期限超過の件数と、それぞれ何日過ぎているかが表示されます。
延長は予約の期間の変更で行い、同じ個体の別の予約と重なる延長はできません。借りた本人以外が返却を記録した場合は、本人にアプリ内で通知が届きます。貸出と返却は利用履歴として残るため、付属品の欠けや破損が後から見つかっても、直前に使った人と日時をたどれます。